最高裁判所第二小法廷 昭和25年(オ)18号 判決
論旨は、原判決が乙第七号証の一乃至五によつて、上告人等に対する青森県農地委員会の訴願裁決書の謄本が、昭和二三年五月二七日発送せられ翌二八日上告人住所に配達されたことを認定したのに対し、同号証の四、五の証明書は郵便規則所定の期間経過後に発行したものであるから、これを証拠に採用したことは採証の法則に反するものであり、又二七日に青森を発送した郵便物が二八日に上告人方に配達されたという認定は実験則に反すると主張するのであるが、仮りに証明書の発行が郵便規則所定の期間後であるとしても、原審がその自由心証により証明書の成立が真正であると認めてこれを証拠に採用したことは違法ではない。そして裁決書の謄本が二八日に配達されたことは、取扱官署である右郵便局の証明書の記載により明らかであるから、原審がこれに基ずいて配達の日時を認定したことは相当であり、実験則に反するとはいえない。また論旨は、裁決書の謄本が配達されたとしても、それと同時に裁決のあつたことを知つたことにはならないから、これを以つて出訴期間の起算点とすることは違法であるというのであるが、本件訴願裁決書が昭和二三年五月二八日、上告人野宮義弘及び上告人野宮衷の法定代理人野宮義弘に適法に配達されたことは原判決の確定するところであるから、特段の事情のない限り、上告人又は右法定代理人は右裁決書謄本の配達を受けた日に右裁決のあつたことを知つたものと認めるべきは当然である。論旨には当時上告人が旅行不在であつた旨述べているけれども右は原審で主張しないところで原判決も右のごとき事実を認定していないのである。従つて右と同趣旨に出た原判決は正当であつて、論旨はいずれも理由はない。
同第二点について
論旨は、上告人が在村地主であるに拘らず被上告人が不在地主として買収計画をたてたのは違法であるというのであるが、原判決はこの点については何等判示をしていないのであり、出訴期間経過後においては、もはや右のような事由によつて買収計画の取消を求めることは許されないと判示しているのであるから、原審の判示に副はない論旨は採るを得ない。
同第三点について
論旨は結局自作農創設特別措置法における出訴期間の制限は憲法に違反するもので無効であるというに帰するが、右規定が違憲でないことは、当裁判所昭和二三年(オ)第一三七号同二四年五月一八日大法廷判決の趣旨に徴して明らかであるから、論旨は理由がない。
よつて、民訴四〇一条、八九条、九五条を適用して主文のとおり判決する。
右は全裁判官一致の意見である。
(裁判官 栗山茂 小谷勝重 藤田八郎 谷村唯一郎)
上告代理人片山昇同成田篤郎の上告理由
第一点
原判決理由ノ部ニ「よつてまず本件訴訟が法定の出訴期間内に提起されたものであるかどうかの点について考えるに成立に争いのない乙第七号証の一乃至五によれば第一審被告青森県農地委員会は第一審原告両名(訴願人)の訴願を棄却する旨の裁決書の謄本を昭和二十三年五月廿七日第一審原告等に発送しその謄本は翌二十八日何れも同人等に配達されたことが認められる。成立に争のない甲第五号証ノ一、二の記載内容によつては未だ右認定を動かすに足りないし当審に於ける第一審原告野宮義弘本人訊問の結果中右裁決書謄本が第一審原告等に届いたのは昭和二十三年六月十五日であるとの部分は当裁判所の措信し得ないところであり他に前段認定を左右するに足る証拠がない。従つて特段の事情がない限り第一審原告等は右裁決書謄本の配達を受けた日に右裁決のあつたことを知つたものと認めるべきであるから云々」
ト判示シタガ原審デハ配達ヲ受ケタ日ヲ五月二十八日ト認定シタノハ偏ヘニ乙第七号証ノ四、五ノ配達証明書ノミニヨル認定デアルガ同号証ノ下部ニアル「スタンプ」ニヨレバ昭和二十四年七月十九日ノ日附トナリ居リ満一年二ケ月後ノ証明デアツテ右証明ガ何ニ依ツテ為サレ居ルヤ根拠トナルベキ何物モナク而シテ乙第七号証ノ三ニヨレバ元来之ノ郵便物ハ単ナル書留郵便ニ附シタモノデ配達証明郵便デハナイコトガ明カデアルカラ該郵便物差出後一年以内ナレハ該郵便物ノ受領証ヲ提出シテ之カ配達証明ヲ引受郵便官署ニ請求スルコトガ出来得ルケレ共(郵便規則第四十二条ノ三参照)爾来一年以上ヲ経過シタコト明ナル本件ニ在リテハ(乙第七号証ノ三参照)前示乙第七号証ノ四、五ノ如キ証明ヲナスハ法的ニ違法且ツ不可能ナコトデアリ原審ハ之ノ点ヲ何等ノ審査ヲセズニ判断シテアルカラ判断遺脱カ又ハ証拠力ガナイ乙第七号証ノ四、五ヲ取ツテ以テ採証ノ具ニ供シタ違法ガアル。
殊ニ青森新町局受附ノ書留郵便ガ翌日同県板柳局デ受取リ且ツ之ヲ名宛人ニ配達サレルコトハ実験則上考エ得ラレズ少ク共翌々日頃ノ配達ニ附サレルノカ平時ニ於ケル常識デ、昭和二十三年五月当時ハ所謂戦後ノ郵便物トシテ一週間ヤ二週間位放任サレタコト珍ラシカラザル事情ナルニ於テ尚ホ一層配達日時ノ不確実性ヲ認メナケレバナラナイ。然ルニモ不拘板柳局ガ一年二ケ月後ニ至リ被上告人ノ懇請ニヨリ勝手ニ斯ル証明ヲナシタルモノデ、斯ル違法ナ証明デ為サレタ原審ノ前示認定ハ実験則無視、採証法則誤解ノ違法ガアルカラ到底破毀ヲ免レナイト確信スル。
尚ホ裁決書謄本ノ配達ガアツタトシテモ原判決ノ様ニ之ト同時ニ上告人両名ガ該裁決アリシコトヲ知ツタト認定スルニハ、少ク共受取人が上告人本人デアルコトヲ確メタ上デナケレバナラヌコトガ当然デアルノニ原審ハ此ノ点ヲ特段ノ事情ガナイ限リ云々ト軽ク片附ケテ居ルケレ共上告人ハ其ノ主張ニ於テ青森県農地委員会ガシタ訴願棄却ノ裁決ノ告知ヲ受ケタノハ同年六月十五日デアルト明白ニ陳述シテ居ルノデアルカラ此ノ事情ヲ取調ベタ上デナケレバ軽々ニ斯ル判断ヲ下ス得ザルコトハ多言ヲ要シナイノデアル。
此ノ点ニ付キ当時上告人義弘ハ林檎園耕作人夫雇人ノタメ他ニ出張不在デアリ、妻ちをガ本郵便ヲ受領シタ儘急遽浅虫温泉ニ三女病気篤キタメ看護ニ出掛ケ六月十五日上告人ガ帰宅ト同時ニ之ヲ開披シ始メテ知リタルモノデ右ハ特段ノ事情ガアルモノデアルカラ本件裁決アリタルコトヲ知リタル日時ヲ主張シ居ルノデ、原審ハ何等之ヲ究明セスシテ判断ヲ下シテ居ルノデアル。上告人義弘ハ六月十七日頃第一審訴訟代理人弁護士工藤鉄四郎ニ対シテ提訴方委任シ且ツ同月二十三日同弁護士ヲ訪ネ訴状作成提出セルヤ否ヤヲ確メタルニ同弁護士ハ同日中ニ提出スル旨確答セシヨリ之ヲ信ジ帰宅シタモノデアル。然ルニ仙台高等裁判所民事部ノ第一回口頭弁論当日出仙傍聴ノ際(昭和二十四年七月四日)裁判長ノ質問ニヨリ始メテ七月十二日ト出訴日改竄セラレ居ルコト判明シタルモノデ特段ノ事情ガアルコトハ原裁判所ニ於テモ十分知悉スル所デアルカラ前記ノ如キ原判決ノ理由ハ甚ダシク当ヲ得ザルモノデ破毀ヲ免レナイモノト謂ハザルヲ得ナイ。
第二点
上告人野宮義弘ハ昭和十九年四月ヨリ同二十一年十月十日頃迄ノ間、中等教育者払底ノ折柄宮城県ニ招聘セラレ同県吉岡高等女学校数学教師ヲ勤メタルモノデアルガ其ノ住居ハ依然変更スルコトナク毎週月火水ノ三日間ヲ除キテハ住居地ニ於テ農耕ヲ営ミ居リタルモノデアル。其ノ間主食等生活物資ノ一部配給ヲ吉岡町ヨリ受ケタトシテモ之ヲ以テシテハ不在地主ト断定スルコトハ出来ナイ。又野宮衷ハ勉学ノタメニ弘前市ニ祖母ト共ニ赴キタルモノニシテ法規上斯クノ如キ場合ハ尚ホ在村地主ト認ムルコト明カデアル。
サレバ上告人等ガ単ニ其ノ住居地ヲ一時離レタル事実ノミヲ取ツテ以ツテ不在地主トシテ其ノ所有農耕地ヲ全部買収計画ニ入レテ買収シタルハ甚敷キ不当ニシテ青森県農地委員会ニ於テ自作農創設ニ関スル法規ノ運営ヲ誤リタルト断ゼザルヲ得ナイ。
今ヤ上告人等ハ寸尺ノ農耕地ヲモ所有スルナク曽テ十二町余ノ耕地所有者ハ本件ニ依ツテ変転赤貧ノ身ト化スルニ至ツタノデアル。今更ラニシテ法令ノ適用運営ノ如何ハ斯クモ公共ノ福祉ニ著シキ影響アルモノナルカヲ知ルモノデアル。
第三点
本件ノ如キ公法上ノ権利関係ニ関スル争イヲ内容トスル裁判ハ直接公共ノ福祉ニ重大ナル影響ヲ及ボスモノデアルカラ行政裁判法ノ廃止ニ伴ヒ昭和二十三年法律第七十五号第八条ニ依リ行政庁ノ為シタル違法処分ノ取消又ハ変更ヲ求ムル訴訟ニ就テ一応其ノ一般的提訴期間ヲ定メタノハ寔ニ然ルベキデアルト思フ。
又更ラニ行政事件訴訟ニ就テハ必要ナ特例ヲ設ケ其ノ取扱ヒニ関スル適正ナル処理ヲシヨウト云フコトカラ行政事件訴訟特例法ノ制定ヲ見タコトモ亦当然ノ事柄ト云フベキデアル。
而シテ自作農創設特別措置法ニ依ル出訴期間ノ制限ガアルトシテモ同法ガ其ノ適用ヲ誤レバ本件ノ如ク即チ一朝ニシテ全財産ヲ喪失セシムル為メノ法律トナツテ正ニ憲法違反ノ法律タルノ結果トナル。然ラバ出訴期間ノ制限ハ当然無効デアルトノ見地ニ立ツテ農地買収裁決ノ取消又ハ無効確認ヲ求ムル訴ニ就テハ出訴期間ノ制限ガナイモノト云ツテモ良イト思フ。即チ憲法ニ違反スル法律デ当然無効ナル処分ナレバ期間ノ経過ニヨリ法律上争フコトガ出来ナイト云フコトハ違憲法律ヲ認ムル結果トナリ到底破毀ヲ免レナイモノデアル。